ブログ / 臭気対策

解説 · 約9分

工場の臭気・悪臭防止法対策(特定悪臭物質・臭気指数・近隣苦情)

監修:大滝良彦(VOC空気清浄機事業部 セールスエンジニア) 公開

発生源で有機溶剤のにおいを吸い込み、活性炭で処理してから排気する装置構成の断面イラスト
規制基準は敷地境界と排出口で測ります。においは室内でごまかすのではなく、発生源で捕まえるのが基本です。

悪臭防止法は、工場などの事業活動で出るにおいを規制し、住民の生活環境を守る法律です。規制のかけ方は2種類あり、トルエンやキシレンなど22の特定悪臭物質の濃度で規制する方法と、人の嗅覚で数値化した臭気指数で規制する方法があります。規制基準は敷地境界線・気体排出口・排出水の3か所に定められ、都道府県知事または市長が地域ごとに指定します。基準を超えて生活環境が損なわれていると認められると、市町村長から改善勧告、次いで改善命令が出され、命令に従わないと1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になります。

近隣から「においがする」と連絡が来た、または自治体から問い合わせが入った。この記事は、その状況にいる工場の担当者に向けて、悪臭防止法の規制の仕組みと、発生源での対策の選び方を整理します。溶剤ごとの具体的なにおい対策は有機溶剤の臭気対策に、装置は業務用の脱臭・集塵装置にまとめています。

目次
  1. 悪臭防止法とは(何を・誰が規制するか)
  2. 2つの規制方法(特定悪臭物質と臭気指数)
  3. 規制基準がかかる3か所
  4. 22の特定悪臭物質と、工場で問題になりやすい溶剤
  5. 苦情が来たら何が起きるか(勧告・命令・罰則)
  6. 発生源でにおいを下げる対策
  7. よくある質問

悪臭防止法とは(何を・誰が規制するか)

悪臭防止法は、工場その他の事業場の事業活動にともなって発生する悪臭を規制し、住民の生活環境を守ることを目的にした法律です。規制の対象は、事業場から敷地の外に出るにおい。工場だけでなく、飼料・肥料の製造、畜産、食品加工、塗装、印刷なども含まれます。

地域を指定するのは都道府県知事、市の区域では市長です。指定された「規制地域」の中で、自然的・社会的な条件を考えて規制基準が決められます。実際に苦情を受けて調査し、勧告や命令を出すのは市町村長です。令和5年度の悪臭に係る苦情は全国で11,735件あり、そのうち規制地域内の工場・事業場に関するものは4,171件でした。

根拠:環境省「悪臭防止法の概要」、悪臭防止法(昭和四十六年法律第九十一号)、環境省「令和5年度悪臭防止法等施行状況調査の結果について

2つの規制方法(特定悪臭物質と臭気指数)

悪臭の規制には2つのやり方があり、自治体が地域ごとにどちらを使うかを選びます。単一の物質がにおいの主な原因になる業種では物質濃度規制、いくつものにおいが混ざる複合臭には臭気指数規制が向いています。

規制方法測る対象測定のしかた向くにおい
特定悪臭物質濃度規制22物質それぞれの大気中濃度ガスクロマトグラフなどの機器分析原因物質がはっきりしている単一・少数のにおい
臭気指数規制においの強さ全体を数値化した臭気指数三点比較式臭袋法(人のパネルによる嗅覚判定)複数の物質が混ざった複合臭

臭気指数は、においのついた空気を無臭の空気で何倍に薄めるとにおいを感じなくなるかをパネルで判定し、その希釈倍数を対数で表した数値です。人が実際に感じるにおいに近いため、採用する自治体が増えています。

規制基準がかかる3か所

規制基準は、においが敷地の外に出る経路にあわせて3か所に定められています。どれか一つでも超えると規制基準の超過です。

  1. 敷地境界線(1号規制):事業場の敷地の境界での基準。臭気指数規制の場合、自治体が10〜21の範囲で設定します。近隣苦情でまず問題になるのはここです。
  2. 気体排出口(2号規制):煙突など気体の排出口での基準。排出口の高さと排ガス量から、敷地境界の基準を守れる濃度を計算して定めます。
  3. 排出水(3号規制):事業場から公共用水域に出る排出水中のにおいの基準。においが水を経由して問題になる業種向けです。

根拠:環境省「悪臭防止法の概要

22の特定悪臭物質と、工場で問題になりやすい溶剤

特定悪臭物質は、不快なにおいの原因になり生活環境を損なうおそれのある物質として政令で指定されたもので、現在22物質です。硫黄化合物やアルデヒド、有機酸などが多いのですが、そのうち6つは塗装・印刷・接着で使う有機溶剤です。

物質系統主な発生作業
トルエン芳香族塗装、印刷、接着、洗浄
キシレン芳香族塗装、印刷
スチレン芳香族FRP成形、樹脂加工
酢酸エチルエステル印刷インキ、接着、塗装
メチルイソブチルケトンケトン塗装、洗浄
イソブタノールアルコール塗料・インキの溶剤

メチルエチルケトン(MEK)は22物質には入っていませんが、臭気指数規制の対象にはなり、有機則や濃度基準値では管理対象です。においの性質は酢酸エチルやメチルイソブチルケトンに近く、活性炭で吸着できます。

根拠:悪臭防止法および悪臭防止法施行令の別表

苦情が来たら何が起きるか(勧告・命令・罰則)

近隣からの苦情は、すぐに罰則につながるわけではありません。段階を踏みます。

  1. 調査・立入検査:市町村が発生源を調べ、敷地境界などで濃度または臭気指数を測定します。
  2. 改善勧告:規制基準に適合せず、住民の生活環境が損なわれていると認めるとき、市町村長が期限を定めて改善を勧告します。
  3. 改善命令:勧告に従わないとき、市町村長が改善命令を出します。
  4. 罰則:改善命令に違反すると、悪臭防止法第24条により1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になります。

罰則の前に勧告・命令という段階があるので、苦情の連絡が来た時点で発生源の対策に着手すれば、命令や罰則まで進むことはまずありません。動かずに放置したときにだけ、次の段階に進みます。

根拠:悪臭防止法 第8条・第24条

発生源でにおいを下げる対策

規制基準は敷地境界や排出口で測ります。室内の消臭ではなく、外に出るにおいの量そのものを減らす対策が要ります。上から順に検討します。

  1. 発生源を減らす・変える:低臭・水性の材料への変更、容器や工程の密閉、取扱量・作業時間の見直し。
  2. 発生源で捕まえる:局所排気装置やプッシュプル型換気装置で、においが広がる前に吸い込みます。ダクト工事ができない現場では発散防止抑制装置。
  3. 出口で処理する:活性炭吸着や触媒燃焼などの脱臭装置で、排気のにおいを落としてから外に出します。
  4. 測って確認する:対策の前後で敷地境界や排出口を測り、数値で下がったことを記録します。自治体や近隣への説明にも使えます。
装置内部の空気の流れ。吸引口から活性炭フィルター、HEPAフィルターを通ってクリーンな空気が排気される流れの図

塗装・印刷・接着で出るトルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトンなどの溶剤蒸気は、活性炭で吸着できます。当社(ベリクリーンエア)の装置は局所排気装置が設置できない現場の有機溶剤対策で、発散防止抑制措置の特例実施許可(大阪労働局天満署 令和4年度第1号)を取得しています。累計160台の導入実績があり、あるインクジェット印刷ドックのMEK対策では、付近の濃度400〜500ppmが装置の設置後に0ppmで安定した測定例があります(2024年7月)。排気側で処理する業務用の脱臭・集塵装置もあります。悪臭防止法の規制基準に適合するかは自治体の測定で判断されるため、導入の前後で敷地境界や排出口を測って効果を確認してください。当社の装置は有機則対策向けで、特化則の対象物質には対応していません。

よくある質問

近隣から苦情が来ただけで罰則がありますか?

いいえ。苦情がそのまま罰則になることはありません。まず市町村が発生源を調べ、敷地境界などで測定します。規制基準を超えていて生活環境が損なわれていると認められると、市町村長が期限を定めて改善勧告を出します。勧告に従わないと改善命令、その命令にも違反してはじめて、悪臭防止法第24条で1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象になります。

うちの地域は悪臭防止法の規制対象ですか?

都道府県知事、または市の区域では市長が指定する「規制地域」に入っているかどうかで決まります。多くの工業地域・住居地域が指定されています。自治体の環境担当課に問い合わせるのが確実です。環境省の施行状況調査でも地域指定の状況が公表されています。

特定悪臭物質と臭気指数、どちらで規制されますか?

自治体が地域ごとに選びます。単一の物質が原因になりやすい業種では物質濃度規制、複数のにおいが混ざる複合臭には臭気指数規制が向いており、近年は臭気指数規制を採用する自治体が増えています。両方の基準がかかる地域もあります。

MEK(メチルエチルケトン)は特定悪臭物質ですか?

22物質には入っていません。ただし臭気指数規制の対象にはなり、有機則や濃度基準値では管理対象です。においの性質としては酢酸エチルやメチルイソブチルケトンと近く、活性炭で吸着できます。

消臭スプレーや脱臭剤で対応できますか?

室内で一時的ににおいを感じにくくするだけで、発生源から外に出るにおいの量は変わりません。規制基準は敷地境界や排出口で測るため、発生源での捕集や排気の処理が必要です。

対策にかかる費用の目安は?

発生源の規模と対象物質によって変わります。局所排気装置や発散防止抑制装置、脱臭装置の導入には国や自治体の補助金が使えることがあります。詳しくは有機溶剤・VOC対策の補助金の記事にまとめています。

監修:大滝良彦

VOC空気清浄機事業部 セールスエンジニア。有機溶剤・VOC対策の技術担当として、装置の選定から労働基準監督署や自治体への対応まで、現場ごとの相談に応じています。近隣苦情が出ている現場では、まず発生源と経路の切り分けからお手伝いします。

お問い合わせ:y.otaki@belica.co.jp

関連ページ

  1. 有機溶剤の臭気対策(トルエン・キシレン・アセトン・MEK・IPA)
  2. 有機溶剤・VOC用の業務用脱臭・集塵装置
  3. 局所排気装置が設置できない現場の有機溶剤対策(発散防止抑制装置)
  4. 有機溶剤・VOC対策の設備に使える補助金(ものづくり補助金ほか)
  5. ブログ一覧